皇室献上論文

■台湾名勝絵巻:木下静涯『宮内庁三の丸尚蔵館収蔵』

■台湾行啓の節に台南市より献上された作品

■宮内庁が所管する博物館施設(2023年1月現在)

■第76回展覧会:平成29年(2017年)3月25日〜6月25日

■名所絵から風景画へー情景との対話(近世から近代に描かれた作品集)

■作品番号29

■3真景図:実景描写の試み

台湾行啓(臺灣行啟):1923年大正12年4月昭和天皇(皇太子時代)による訪問

:2023年令和5年現在 

  :今から100年前の作品

2巻のうち上巻
絹本着色41.7×426.2

『皇室に伝えられた風景画をめぐって』

 人の心に映る風景、そしてそれを写す人の心情。

こうして描かれた景観は、豊かな人間性が培ってきた文化の奥深さです。

 鎌倉から室町時代にかけて日本に伝わった中国の山水図は、風景描写の幅を広げたといえるでしょう。

 日本では見られない懸崖な山容や神仙思想に基づく崇高な山水の姿は絵師や文人達の心を動かし、見ることの叶わない東洋の風景は憧憬の対象となり、理想郷として描き継がれることとなります。

 江戸時代に入ると交通網が整備され、諸国の遊歴が盛んになったこともあり、これらの概念的な名所絵、山水図とは別に実景描写に基づく真景図が登場します。

 絵師達は名所として和歌に詠まれていた地に足を運び、また新たな名所地として遭遇し、実感をともなった真に迫った描写を行うようになりました。

 そして明治時代以降、新たに流入した西洋画を目にした画家達は伝統的な名所や有名な景勝地でなくても自然の明暗や大気そのものが十分に画題となり得ることを知り、私達が思い浮かべる風景画に近い絵が登場することとなります。

ご覧いただき美しい景色に心を託すことの歓びを

再認識していただければ幸いです。 

『平成29年3月 宮内庁三の丸尚蔵館 ごあいさつ』より記載

本絵巻は上下2巻本

∞上巻解説∞ 

 鮮やかな赤色や黄色の花が咲き、線路に沿ってトロッコを押している人、乗車している人、荷物を運んでいる人、が繊細に表現されて山奥へ分け入っていく人々の様子が描かれている。

 山の途中には、炭焼き小屋で作業をしている人が描かれ、山を超えると視界が開かれた広大な景色が広がり、見下ろした地上には家や船や漁師の姿も細かく描かれて、数十羽の白鷺や数羽の鳥が群を成して飛翔していた当時の様子が鮮明に描いてある。

視界が遮られる雲煙が立ち上り、険しい狭谷が描かれ、遠山へと続いていく。

ロイヤルブルーの山の手前には、繊細優美な一羽の鷲(わし)が余韻を残し、力強く飛び去ってゆく…

そして上巻は、幕を閉じている。

大自然の後景が大胆に切り替わる構図に加えて、小さく労働する人々を描く事で、自然のスケールの大きさ、偉大さを表現し豊富な金泥、群青、緑青などの鮮やかな色彩を効果的に用いて、表現し、静涯が魅せられた台湾の自然美が見事に抽出されている作品を静涯画伯は描ききった。

文 静涯結心

名所絵から風景画へ 29 台湾名勝絵巻 木下静涯より一部抜粋

風景画とは誰にとっても親しみを感じる絵画ジャンルと云えるでしょう。

我が国(日本)における風景画はさかのぼれば平安の頃より今に至るまで様々な変遷を辿りながら多彩な意味合いを獲得してきた奥深いものなのです。

『平成29年3月 宮内庁三の丸尚蔵館 はじめに』より記載

                                                 

この献上によって、さらに画名が広まったのを機に静涯は台湾に移住する事を決心し淡水に居を構えた。台湾美術展覧会の創設に関わり、審査員をつとめ台湾美術の発展に尽力した。現在台湾では、静涯の旧居「世外荘」は重要建築物に認定され 周辺は木下静涯記念公園となっている。

ご協力:宮内庁三の丸尚蔵館

   :宮内庁三の丸尚蔵館学芸室研究職

   :学芸室研究員

『関係者の皆様ご支援くださる皆様に心より感謝御礼申し上げます。』

筆:静涯心結

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